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すべて真実

検査をうけた咄

年末から体調が悪く、不本意な年明けだった。ものを飲み込むにもその度につかえてしまう。それだけ咽頭が腫れてしまった。仰向けになれば喉仏のがわの、膨れあがった肉が沈んできて喉奥と接触する。体感したことのない厭な感触に寝るのも辛かった。喋れば音が掠れる。咳は出ないから例の流行病ではないだろうと勝手な見当をつけたものだが、それでも気がかりではあった。微妙ながら体温も高まっていたから。

酒は呑んでいた。親、大親ともども三ヶ日は朝から呑んだ。風邪にはコレですよね、と言わんばかりに燗をつくって傾けた。食欲もあった。腹はくだしていた。

 

年明け2週目にようやく地元の医院へ赴き診察を受ける。COVID - 19ではないでしょうと言われ、ツムラ漢方薬と抗生剤を処方された。次第に喉も熱も落ち着いて、割合に調子は出た。

しかし、バイト先から念のためにPCRを受けるようにと言われた。調べると新宿に検査所があるらしく、別件で渋谷に用もあったので歌舞伎町に決めた。先刻、済ませてきた。

 

中は投票所を思わせた。選出したい候補者の名前を紙に書きつけるための、あの狭いスペースに酷似していた。右も左も当然壁。真正面の壁には検査方法が書いてあって、このあたりも投票所の作りと似ていた。

指示に倣ってストローを咥え、検査に必要な量の唾液を試験管に溜める。たまに口から離して、量を確認する。

事業者以外に声を出す者はいなかった。いま、電話ボックス程度の狭い空間に老若男女が各々唾液を垂れていると思うと面白く、自分もその1人と内省すればなお可笑しかった。不謹慎にも、内心、にやりとしていた。