無題七歌
冬はゆる女の肌の翳ぞ朝窓霜に溶く奥に木瓜咲く
波打てる浜に睡らむ岩石の星霜を夢む漣痕に指なぞる吾児(あこ)
畑道(はたみち)の先に構えし氏の宮 傍(はた)に庚申三峰の石
花を背にまた山背負い立つ老人の顔にかかる黄葉の彩 風きれる秋
畳の蚊微睡む男のはだけし浴衣ながれる女の艶の黒髪
戸燈(とあかり)の幽けさ
夜(よ)は青のいろ 母の影しおらし月に崩れむ
死してなお思いを馳せじ華の名の汝(な)が名をうたう我(わ)はひとつ影ひく、地獄に
元来、夢うつつと、かだむくのが苦手なたちではある。この夜はとりわけ眠りが遠かったので、床のなかで拙いものを詠めた。親しいひとに見せると、渋い顔をされた。言葉にもなっていない。そんな不安を憶えた。