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すべて真実

2021-10-01から1ヶ月間の記事一覧

藤枝静男『田紳有楽』と説話『信濃国聖事』あるいは『信貴山縁起』

私の身体は主人の垢だらけの大きい手に掴みあげられた。私の全身を戦慄が走った。私は石に叩きつけられて四散するのか。だが主人はそのまま私を胸にあててもう一度山村を拝すると 「滓見白と申す貧僧の姓名をこの丼鉢に与え、これより後は貧僧になり替って…

信仰の契機 ーー説話文学にみえる発心 弐

近年、龍樹の著作群の見直しが量られている。『大智度論』『十二門論』など、龍樹が書いたとされる著作の数は少なくない。しかしながら、最新の研究では龍樹の新作は『中論』のみという学説が支持を集めており、さまざまな本やシンポジウムで紹介されている…

信仰の契機 ーー説話文学にみえる発心 壱

パスカルは『パンセ』において信仰は訪れるものであると語っている。信じているかのように振る舞い続けるーー典礼を続けるーーうちに、信仰はむこうからやってくるのだという。 仏典で語られる発心の契機は様ざまだが、もうすこし俗っぽいもの、たとえば説話…

メモ : 仏教の男性中心主義と陰核 ーー仏典のなかの女性の正覚

最近、カトリーヌ・マラブーの『抹消された快楽』の訳書が上梓されたことで、フランス思想研究の界隈がにぎわった。 www.h-up.com 筆者も刊行記念のオンライン講演会に参加し、マラブー氏本人の講演や本邦の研究者たちによる意見交換会に接した。 哲学史上…

神神の罠

pas-toute.hatenablog.com 上の記事に掲載した拙作に対し、後半において神(性)が頻出してることを指摘する声が知人からあがった。このことについて少し。 いま筆者の経机のひきだしには、じつに愛らしい花花のイラストレーションが散りばめられた装幀に包…

補遺: 数学者の両吟と詩人の両吟、小説家の両吟

前回両吟を記事にしたことに契機づけられて岡潔の歌をいまいちど確認しようと思ったのだが、『春宵十話』が見当たらなかった。察するに、近年再評価がなされるこの数学者の随筆を、わたしはある時期から「なにか途方もなく間違っている」気がしてならなくな…

白紙のうえの片吟

黴雨(つゆ)の梅啼く鶯はなかりけり響きは高し蜩の声 海原のごと畴(うね)りさわぐをみなへし風にちぎれむ潮の黄金 宿酔の水の渇きや畳の上(え)庭苔花は雨に光らむ 夏なれば磯の薫りそ便りなる風に忍べる海の言の葉 あるいは 夏なれば磯の薫りそ便りなる…