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すべて真実

ファエンツァ写本

 

Codex Faenza (I-FZc MS 117)の写本がimslpにアップロードされていた。

 

https://ks4.imslp.info/files/imglnks/usimg/8/82/IMSLP352519-PMLP569345-codex_faenza.pdf

 

 

DIAMM(the Digital Image Archive of Medieval Music.オックスフォード大学が運営する中世音楽の写本ライブラリー)でも画像を公開していたらしい情報を見つけたのだけれど、いまは書誌情報のみ掲載されていて、現物の画像をみることはできない。ただ、imslpにアップロードされている画像には「DIAMM」の文字が確認できるので、誰かがDIAMMの画像を拝借したのだろう。

 

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「Kyrie」 Codex Faenza

 

DIAMMの説明によると、この写本に収められた音楽作品は基本的に14世紀と15世紀初頭に手掛けられたもので、鍵盤を主体とした曲が多くを占めている。マショーをはじめとする中世の音楽家たちの歌曲を編曲したものが多いのだが、鍵盤と声楽のための典礼曲や、音楽理論をあつかった論文も載せられている。もっとも、北イタリアやフェラーラサンパウロ教会でも複写がつくられており、20世紀にもなってからエミリア=ロマーニャ州のファエンツァに運ばれたらしい。

 

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英語版Wikipedia「Faenza」より。https://it.wikipedia.org/wiki/Faenza

 

ファエンツァ写本の録音は少なくなく、ここのところ夜の耳は様ざまな演奏家によるファエンツァの音楽を聴くことに費やされている。

そこで気がついたのが、意外に楽譜で指定されているメディウム(鍵盤と声楽)以上に多様な楽器を使うことが恆らしいことだ。当時の演奏というのはかなり自由度が高かったのだろう。管楽器や弦楽器が追加されるぶん、神妙な雰囲気から賑やかな雰囲気まで十分に演出されている。

特に素晴らしいのがMala Punicaによる録音。Pedro Memelsdorff率いる古楽集団で、アルス・ノヴァとアルス・アブスティオルを専門的なレパートリーとしている。団名のMala Punicaマーラ・プニカはラテン語で「ザクロ」を意味するとのこと。平行世界におけるグレゴリオ・パニアグヮと彼の率いる古楽アンサンブルといってみても、強ち間違いではない気がする。あまりにも綺麗で妖艶な、文字通り昼の曲と対極にあるような曲なので、夜な夜な親しいひとに薦めていたのだけれど、聴き終わる前に眠りについてしまうらしい。

 

ファエンツァ写本には数種のKyrieが収録されている。しかも、おそらくグレゴリオ聖歌のミサ曲のなかでもとりわけ人気の高い曲であろう「Cunctipotens Genitor Deus」と「Orbis Factor」のKyrieを原曲としており、二曲をこよなく愛でるワタクシとしてはまったく骨抜きにされてしまう。このあたりの話は、また次回に譲る。